神田左京(世界的ホタル研究者)ゆかりの神社

中部大学  大場 裕一 教授

フロイト、ユングと一緒に写る若き頃の神田左京の写真を発見!

※中部大学応用生物学部環境生物科学科   発光生物学研究室HPより転載(大場教授のご厚意により、掲載させていただきます)

 

発光生物の研究に半生を捧げた神田左京(1874-1939)は、若いころ心理学を研究していました。1907年に渡米してクラーク大で心理学の修士号を取得しています。その後、ジャック・ロエブに師事して生物学の道に進むのです。

 

神田は、写真に撮られることを極度に嫌ったとされ、その肖像はほんのわずか(おそらく3枚)しか現存しません。今回私がたまたま見つけたこの写真はおそらく4例目になると思われます。しかも、フロイトがたった一度だけアメリカに行ったそのときに、フロイトやユングと一緒に並んで写っているのです。

 

その後の神田を襲った苦難の末に人嫌いになってしまったのかもしれませんが(少しわかります、その気持ち)、この写真にはまだ若き日の希望の眼差しが感じられます。

神田左京とユング (2).jpg

 写真(拡大)の右端中段が神田左京。左下の白髭がフロイト、その右隣に立つ長身の男がユング。なお、神田の後ろにいる神田を見下ろしているかのような人物は優生学で悪名高いゴダードである。

 

・写真の元サイト ☞   https://www2.clarku.edu/micro/freudcentennial/images/1909Psychconference_1000i.jpg

  ★発光生物学研究室はこちら ☞  https://www3.chubu.ac.jp/faculty/oba_yuichi/

 

  

 

 神田左京とは?

神田左京は明治期から昭和初期にかけての生物学者で、今にホタル研究者のバイブルと言われる名著『ホタル』を執筆、世界的ホタル研究家として知られています。

 

明治7年7月7日、当地の隣町佐々町の社家(代々続く神主の家)に生まれた左京、実はここ春日神社元宮司 榊原貞美の孫(左京の父、米男は榊原貞美の三男)に当たります。

 

神田左京は東京で英語教師を経て明治40年に米国留学。クラーク大でマスターオブアーツ取得。ロックフェラー研究所、ミネソタ大で生物学を修めました。大正4年に帰国後は、京大、九大、理化学研究所等でホタル研究に当たり昭和10年、集大成として前述の名著を自費出版。その4年後、誕生日と同じ七夕に65歳で他界します。ホタル学者と星祭り。何ともロマンです。

 

昭和56年に復刻された同書(サイエンティスト社)には「ホタルに憑かれた人、神田左京」の題で解説が加えられています。ひとことで言うと孤高の人で、悲運の生物学者だったようです。生涯独身で人との交わりを嫌い、英国学士院会員を辞退するなど権威を嫌い、学界では変人扱いされました。しかし、その業績は高く評価され、特に幼虫時代を水中で過ごす、世界でも特殊なゲンジボタルとヘイケボタルについての研究は極めて貴重だといいます。

 

また、左京はホタルの名所をめぐり、環境保護の必要性を説いたことから、日本における自然保護運動の先駆者とも言われています。いま、各地に「ホタルの里」として保護地が多くなったことは、彼の念願としていたところでしょう。

 

ところで、春日神社も昔から、5月中旬から6月中旬にかけて鎮守の森にホタル火が飛びかうホタルの里です。毎年この時期、幻想的な光景を見るにつれ、なぜに神田左京がホタルに魅せられたのかは、春日神社と無関係では無いように思えてなりません。

 

ホタルの里は、「こころの里」にも聞こえます。故郷を遠く離れ、天涯孤独な反骨の学究、神田左京がホタル研究を通して見ていたものは、きっと幼い頃に見た、春日の森のあの光景と、心のふるさとだったのかも知れません。